堺市都市計画マスタープランの素案について(意見書)

1997年12月2日

堺市長
 幡谷 豪男  様

堺市庭代台1丁23−5−206
 鉢ケ峯の自然を守る会
 代表  清 水 俊 雄

堺市都市計画マスタープランの素案(たたき案)について(意見書)
       −南部丘陵の自然環境保全の推進を求めて−

1.はじめに

 かつて大阪府下のどこにでも見られながら、この間、開発の受皿地として急激に失われてしまった「里山」自然環境。その里山の姿を留め、四季折々の変化に富み、多様な生きものを育み豊かな自然環境が残されている南部丘陵は、日本の原風景を留め、青少年をはじめ堺市民が身近に自然に親しめ、自然と触れ合うことができる都市近郊の貴重な自然空間となっています。
 近年、地球環境の危機に対する国際世論の高まりとともに、地球環境問題はとりもなおさず市民生活の足元の環境問題であるという認識が拡がり、自然環境の分野でも、市街地の近郊に残された身近なみどり・自然環境の保全を願う広汎な市民レベルの取り組みが全国各地で展開され、国際的にもその動向が注目されています。
 1994年に堺市が実施した市民意識調査の「堺市がめざす都市像」の設問の中で、7割という多くの市民が「公園や緑地をいかしたゆとりを感じる都市」を求める回答を示しています。又、1992年8月に実施された南部丘陵に対する市民アンケートの中で、南部丘陵に必要と思われる施設として67.7%の市民が「自然を生かした公園」を希望しています。 これら市民調査結果からも明らかなように、堺市がめざすべき都市像の実現や堺市の都市格を形成するうえで、南部丘陵の自然環境の保全は重要な行政課題の一つになっています。
 第三次堺市総合計画において「本市で唯一まとまった樹林地である南部丘陵は自然と人間が共有する場として保全に努める。」と謳われています。しかし、その一方で「近年、残土処分やゴルフ場開発、農地の転用などによって貴重な自然環境が失われつつある。」という問題提起をされています。
 このことは、戦後のわずかな期間に堺市は急激な都市化が進行し、市内のみどり・自然環境が急速に消失したことの反省に立って、南部丘陵の保全に向けた市の姿勢と今後のまちづくりの方向を示したものであると言えます。
 そのようなことから、私たち市民は、今後、20年先をみすえた堺のまちづくりの基本的方針を示す堺市都市計画マスタープランのなかで、南部丘陵の自然環境の保全について、上位計画である総合計画から踏み込んだ保全の方針を策定されることを期待しています。

2.南部丘陵の自然環境保全に係るマスタープラン案について

 さて、マスタープランのたたき案のポイントを見ると全体構想の章のなかで、次のことを方針として掲げられています。
@都市空間の構成方針の丘陵ゾーンは「環境保全・活用ゾーン」に位置付け、環境保全・活用地とする。
A環境等の保全・形成方針において、南部丘陵や河川・ため池などの水辺、緑などの自然環境の保全につとめ、現況の生態系に配慮しながら自然を生かして人と自然が共存する憩いの場を創出する。
 また、第2章の「南地域」の地域別溝想の地域のくみたて方針として、
@南部丘陵地の豊かな自然環境の保全と活用をはかり、市民が自然や農業にふれ親しめる場づくりをめざすとしています。
A南部丘陵関連における都市施設の整備項目として「堺公園墓地の拡張整備の推進」また、地域環境等の保全・形成項目として「ゆとりとふれあいの場構想の推進」などを図るとしています。
 以上の方針等を見れば、中心にすえるべき自然環境の保全については「保全につとめ、生態系に配慮する」と書かれているだけで保全は単に努力目標にすぎず、南部丘陵をどのような数値目標でどこをどのように保全するのかなど、踏み込んだものになっていません。
 自然とのふれあいに名を借りた自然空間(空閑地の位置付け)の活用という方針になっていると言わざるえず、その結果、開発色の濃い土地利用によって南部丘陵の自然環境が虫喰的に、そして、なし崩しに消失されていくことを危惧します。
 とりわけ、具体の計画として掲げられている「堺公園墓地拡張整備計画」は、既存公園墓地の状態から根こそぎ自然を改廃する可能性が高い計画と判断せざるをえません。又、「ゆとりとふれあいの場構想」の先導事業して、「緑のミュージアム」・「東西道路」の建設が具体化されているようですが、東西道路建設はまさに自然破壊そのものであり、緑のミュージアム建設は自然景観を損なうだけでなく有機的なバランスで成り立つ里山の多様な生態系の崩壊につながる危険をはらんでいます。

3.マスタープラン策定に当たっての意見

 以上の観点から、私たち市民は、都市計画法の改正趣旨を踏まえ市民参加の都市計画マスタープランを策定するに当たり、次の意見を反映されるよう要望するとともに、本日、十分お答えできない場合は、検討のうえ後日ご回答いただけますようお願いいたします。

(1)南部丘陵の自然環境に係る方針として、「保全と活用」を並列に位置付けるのではなく、「活用策を具体化するにあたっては、生態系の保全を基本とした自然環境の保全計画の策定を前提とする」という目利張りのある方針としてください。

(2)学識経験者や府・堺市の関係機関等で構成される堺市南部丘陵検討委員会が1994年2月にまとめられた「南部丘陵地域基礎調査及びゾーニング報告書」に示された成果《動植物等の現況基礎調査、A自然環境保全の方策(土地所有権の買い取り、公法や条例等に基づく土地利用の規制など);同報告書P151〜P170、Bゾーニング図及びゾーン別施策の基本方針;同報告書P171〜P174など》をさらに市民参加のもとで練り上げ、南地域の地域構想の中に明記してください。

※同報告書P150に「南部丘陵では本調査によって明らかにされたように、独自の自然環境が高く評価されており、こうした資源を活かした都市林や里山公園等、広域的見地からみた大規模公園等の誘致を図っていくことも望まれる」として触れられていますが、この間、私たちの「会」は、鉢ケ峯寺地区の元ゴルフ場開発計画地を里山と人の関わりを生かした「里山公園」として実現されるよう、堺市に要望しています。なお、以下のコンセプト等を元に、当会で「里山公園構想案」を策定しており、是非ご検討ください。

@里山は原生林や自然林と違い、農業生産と密接に結びつき、手を加えることにより維持管理され、さらに里人のレクリエーション空間をつくりだしていたように、かつての里山と人の関わりを生かすとともに、堺市民(特に青少年)の「体験型自然環境教育の場」とする。

Aある程度、意図的に手を加える部分以外は多様な環境・生態系を保全する。

B放置された棚田や蜜柑畑や荒廃した水辺などの環境を復元する。

C公園の企画運営・維持管理は市民ボランティアによるなど、市民参加を原則とする。

D地域の振興に寄与するように、公園エリアの土地所有者への助成や土地の借り受け、公有地化を図っていく。

E以上のコンセプトを踏まえ、3つのゾーニング【保全ゾーン・里山ゾーン(里山体験エリア、棚田維持回復エリア、トンボのビオトープエリア)・市民農園ゾーン】を設定する。

(3)開発等による土地利用の改変に当たっては、大阪府環境影響評価要綱の適否にかかわら
ず、「計画アセスメントを含む環境影響評価」を行い、又、市民参加のまちづくりの推進を図るうえで基礎となる情報の公開を進めるなど、積極的な表現を追加してください。

(4)中核市昇格に伴い委譲された開発許可等の許認可権限を最大限に生かし、南部丘陵の自然環境を大規模に破壊する「ゴルフ場開発」や「産業廃棄物や残土処分場等の建設」などの禁止をマスタープランに明記してください。