堺市による開発の立地条件承認に抗議

1998年9月10日

堺市長 殿

堺市による別所ゴルフ場開発の立地条件承認に抗議する


鉢ケ峯の自然を守る会     
堺市庭代台1丁23−5−206
清水 俊雄          
Nature Network 和泉     
和泉市緑ヶ丘3−2−16 
岡島 保子          
堺野鳥の会            
堺市城山台4−6−7   
横島 彪           
(社)大阪自然環境保全協会  
大阪市北区豊崎2丁目4−5 岸本ビル2F
高橋 理喜男        

 9月3日、堺市は大和観光開発fより申請されていた別所地区へのゴルフ場増設(48ha)の立地条件を承認したことを発表しました。
 今回の決定は自然保護を願う市民の意向を無視し、堺市の環境保全への責任を放棄したものです。わたしたちはこれに断固抗議します。ゴルフ場開発により自然環境が根本的なダメージを受けること、その結果樹林地の連続性が分断されることについて堺市は判断を回避しています。
 わたしたち4団体は7月17日付「別所のゴルフ場計画に反対する申し入れ書」及び8月24日付「別所のゴルフ場計画に反対する陳情書」において、ゴルフ場開発そのものが、大規模な土地の改変により、自然環境への致命的なダメージを与えること、そして別所の樹林地が河内長野市および和泉市の樹林地と堺市南部丘陵の樹林地をつなぐ重要な位置にあり、オオタカなど生物たちの回廊となっていることを指摘し、開発の結果この連続性が断ち切られることを取り上げています。しかし今回の発表にはもっとも重要なこの問題について全く触れられていません。鉢ケ峯ゴルフ場計画を認めず、別所ゴルフ場計画を認めることは矛盾します。
 鉢ケ峯ゴルフ場計画のときは、市民意向との整合性、樹林地の減少、自然環境への影響について課題があるとし、堺市は計画を認めませんでした。今回、別所ゴルフ場計画について、これらの課題がクリアされているとはとても考えられません。
 すなわち、92年に堺市が行った「堺市南部丘陵地域の自然環境の保全と活用についての市民アンケート」の結果として、南部丘陵に必要な施設としてゴルフ場をあげた人は0.8%であり(自然を生かした公園をあげた人は70%)、別所ゴルフ場についても市民意向との整合性に欠けること。また別所ゴルフ場が造成されることにより、尾根を削り、谷を埋め、樹木を切り倒し、表土を剥ぐなど、自然環境が破壊され、わずかに残る堺市の樹林地を減少させることは明らかです。

なぜこの時期に決定するのか

 わたしたちは8月はじめから署名活動を始め、8月24日に5803名の署名を提出しました。街頭での市民の関心も高く、現在も続々と署名が集まっています。また、わたしたちはこの9月8日から始まった堺市議会に陳情書を提出しています。このように、市民がこの問題を知り、声を上げ始めた時期に、市議会での審議すら待たずに、堺市が決定したということに怒りを覚えます。別所ゴルフ場問題の判断については市民−議会の意向を斟酌する必要はないという堺市の姿勢を見ることができるからです。また、これ以上の市民の反対の声の高まりを恐れて、ゴルフ場開発の既成事実化を意図したものと考えざるを得ません。
 これまでの審議はすべて堺市職員のみにより非公開で行われており、市民意向を反映させる場はなく、その判断の客観性、公正さには疑問があります。結果として市民の意向を無視し、企業の論理を優先させたもので、自然保護に関心を持つ市民として到底認められるものではありません。堺市当局の姿勢が問われています。

堺市の総合計画とも矛盾した今回の決定

 総合計画との整合性として、「開発計画は環境への配慮を踏まえつつ、市民が親しめるレクリェーションの場の整備と共に地域振興を図るものとし、その計画内容や開発方針が総合計画に示された施策方針、並びに地域整備の方向に整合している。」(堺市報道提供資料)としています。
第三次堺市総合計画では「市民が自然や農業にふれあうことの出来るレクリェーションの場の創出など、自然環境の保全と活用をはかる必要がある。」とあります。はたしてゴルフ場が市民に親しめるレクリェーションの場と言えるのでしょうか。実態は大多数の市民とは無縁の、一部の会員による改変された自然の囲い込みでしかありません。

ゴルフ場に公益性があるか?

 「特定日にコースをパブリックとして開放、コース外縁部でハイキングコースを計画するなど、地域振興と公益性の観点への配慮がなされている。」(堺市報道提供資料)と評価していますが、堺市当局者はゴルフプレイヤーのことのみが頭にあるのでしょうか、ゴルフをしない大多数の市民はパブリックにしようがしまいが関係はありません。また、農薬を多量に散布するゴルフ場の回りをハイキングして何が楽しいのでしょう。
 ハイキングは今あるような豊かな自然の中を歩いてこそリラックスできるのです。これらの方策はゴルフ場に公共性があると見せかけるための言い訳でしかありません。

環境への配慮とは何か?

 「レッドデータブック記載の貴重な動植物:カスミサンショウウオ、ヤマトミクリなどへの配慮として可能な限り生息区域の現状保全を計画している。」(堺市報道提供資料)とあるが、開発計画地全体から見ると点でしかない生息区域を一部残すに過ぎないことが読み取れます。生息区域の保全は、生態系として一体である樹林地全体が保全されてはじめて有効です。ゴルフ場に囲まれて、一部がそのまま残ったとしても、汚染された水の流入や、生息環境の変化によって、やがては絶滅してしまうでしょう。点でしかない生息区域を残すことはゴルフ場開発という巨大な自然破壊に対する免罪符であり、しかも決して有効な手段ではありません。環境への配慮を考えるならば大規模な土地の改変を伴うゴルフ場を認めるべきではありません。

アセスメント(環境影響評価)抜きで立地条件を承認できるのか

 堺市は開発者による自然環境調査が行われ、指導したとしています。しかし自然環境調査とアセスメントは根本的に違います。ゴルフ場が開発された場合に自然環境がどういう影響を受けるのかを調査し、開発しないことを含めた代替案を検討することがアセスメントです。
 今回のように自然環境への影響が大きい事例については、アセスメント抜きで審査できません。府の要綱の規定より開発面積を2ha少ない48haとして、開発者は要綱の適用を逃れようとしています。
堺市が環境保全を施策の基本におくならば、当然堺市独自の姿勢としてアセスメントの実施を指導すべきです。実際、独自のアセスメント条例を持つ市がいくつもあります。堺市はアセスメント抜きで今回のゴルフ場計画の立地条件を承認し、環境保全についての市民の期待に背いています。

時代に逆行するゴルフ場開発にあくまでも反対します

 いまやゴルフ場開発は自然破壊と崩壊したバブル経済の象徴であり、環境保全の大きな流れに逆行するものです。地球温暖化防止と生物の多様性を維持するために、堺市がすべきことは樹林地を守ることです。今回の堺市によるゴルフ場の承認は、大きな課題としてある自然環境の保全とその具体化から目を背けるものであり、環境政策の上での大きな後退です。
 堺市は97年3月環境基本条例を策定しました。そこには自然環境を守るための市、事業者、市民の責務が明示されています。また、施策の基本方針を「自然環境を保全し、および創造すること。」としています。しかしどんな立派な条例を作っても、具体的な施策化がなければ何の有効性もありません。今回の別所ゴルフ場の立地条件承認は、理念あって施策がない(仏作って魂入れず)堺市の環境行政の問題点を象徴しています。
 わたしたちは別所ゴルフ場立地条件承認の誤りを多くの市民とともに広く明らかにし、あくまでも撤回に向けて活動を続ける決意です。
 堺市当局はこの抗議を真摯に受け止め、別所ゴルフ場の立地条件承認を撤回し、改めて審査のしなおしをするよう求めます。