大阪府広域緑地配置計画への意見書

意見書の最終です。

                                         1998年11月20日
大阪府知事
山田勇 殿
                                   鉢ヶ峯の自然を守る会会長
                                   清水俊雄

「大阪府広域緑地計画(案)」についての意見書

●はじめに
 鉢ヶ峯の森は、堺市の南部丘陵にひろがるおよそ100ヘクタールあまりの里山で、
堺市内に残された唯一最大のまとまった自然林です。この森には、オオタカやカスミサ
ンショウウオ、70種のトンボ、ゲンジボタルやヘイケボタルなど多様な生物が生息し
ており、二つの小さな水系と谷間に点在する溜め池群とあいまって貴重な里山の生態系
が残されています。
 また多くの市民にとって、環境教育や自然教育、さらにこども達の情操教育の大切な
場として自然観察会や探鳥会、ハイキングなどさまざまな行事や個人的なレクリエーシ
ョンなどに使われています。
 鉢ヶ峯の自然を守る会は、1992年にこの地で計画されたゴルフ場開発問題をきっ
かけに生まれ、今日に至るまで鉢ヶ峯の豊かな自然を守るための活動を続けています。
 現在この地において、堺市により「みどりのミュージアム」という20ヘクタールあ
まりの集客施設の計画と、その施設にとりつく東西道路の二つの事業の計画があります。
 また、鉢ヶ峯の森から連続して、南の別所地区方面にも、豊かな自然林が連担してお
り、さまざまな野生動植物の生息を可能とするみどりの回廊となっていますが、この別
所地区にも約50ヘクタールのゴルフ場増設計画がもちあがり、行政は既にその立地を
承認しており、広大なみどりがいままた失われ、緑地の連携も分断されようとしています。
 「大阪府広域緑地計画(案)」の概要を見る限りでは、私たちが直面しているような
、公園などの施設緑地ではなく、特に有効な地域制によっても守られていない、民有地
の自然林がどのように位置づけられ、どのように保全されるのか具体策がなく、大きな
不安を抱くところです。そこで、以下の問題点を意見書として提出いたします。

1.市街地の膨張、開発による自然破壊は沈静化するか −今後の見通し−
 これからの大阪大都市圏の開発の動向をどうみるかですが、府の案では、従来の市街
地の拡大が鈍化しみどりの保全や創出をバランスよくすすめていける時期になったとあ
ります。
 確かに、経済成長は鈍化し人口も減少・高齢化が予測され、かつてのような無秩序な
膨張は鈍化すると考えられます。それでも、一定の開発と市街地の膨張は継続を止めな
いと私たちは考えています。私たちが直面する、鉢ヶ峯や別所の開発問題にみられるよ
うに、今後は、開発しやすい、市街地に近接した丘陵地をねらった事例が続くと考えて
います。
 こうした、これからの開発のターゲットとなっているエリアは、現在のところ、有効
な制度によって守られている訳ではないところが多く、府の計画の中での位置づけもな
されていない、民有地の自然林、いわゆる里山といわれているみどりで、これをどう位
置づけ保全するのかが、最重点課題であると考えています。

2.みどりの定義がせますぎる −民有地の自然林、里山をみどりに位置づけるべき−
 計画案によれば、「みどり」は、公園などの施設緑地、法や条例で指定されている地
域制緑地、および緑化空間の三つだけです。
 これでは、私たちが、保全に最も意を注いでいる、特に有効な制度の網のかかってい
ない民有地の自然林、いわゆる里山が、計画の対象外となってしまいます。
 みどりの定義として、現在、法制度の網がかかっていない、民有地の自然林、いわゆ
る里山をその範疇に加えるべきです。

3.みどりの現況把握が粗雑 −里山の残存面積の正確な把握が必要−
 計画案では、みどりの現況把握が、大ざっぱすぎます。特に、市街化調整区域には、
さまざまなみどりが存在しています。「公園」として位置づけられているのか、法や条
例によって位置づけられているのかという、制度の視点での数字ばかりが先走っていま
す。
 私たちは、自然地(原生林や里山、水系)がどれだけ残存しているか、植林によるみ
どりはどれだけを占めているのか、農地はどれだけなのか、そして、公園などの新たに
作られたみどりはどれだけなのか、といった、生態的な違いによる分類別のみどりの量
を正確に把握すべきだと考えています。これは、たとえば、野生動植物と人間の諸活動
をどう共存させるべきなのかという議論を行う上での基礎数字となるものです。特に、
民有地の自然林、いわゆる里山は、私たちの推計では数万ヘクタールは残存していると
考えられ、大阪の野生動植物の生息と広域緑地の配置について議論する上で、この里山
がどれだけ、どのように残存しているかを正確に把握せずにはすまないと考えられます。
 さらに言えば、正確な現状分析を怠って計画してしまうと、一方で、都市公園の建設
や緑化をすすめながら、他方で里山を破壊するというチグハグな事態に陥る可能性が大
きいと考えています。
 以上の観点からのみどりの現況の内訳を明確にし、再度私たち市民の意見を採り入れ
ていただけないでしょうか。

4.みどりの量の確保目標について −量だけでなく質が重要、野生動植物と共存でき
るみどりをどれだけ確保しようとするのかを明確にすべき−
 数値目標を設定する場合、どのようなみどりを確保するのかという、みどりの質の問
題を避けることはできない筈ですが、今回の計画案には、そうした考察がほとんどみら
れません。
 市街化調整区域の広域緑地の配置計画においては、レッドデータブックに記載のある
動植物を保全する視点から検討すべきことはもちろん、堺市別所のアカシデ林やイワワ
キオサムシなどの、数百ヘクタール程度の狭い単位の地域における希少種・希少群落等
に関する配慮をもってのぞむべきです。そのためには、都市公園のように作られた自然
ではなく、自然のままの地表面、自然護岸の水系、野生生物が行き来できるような自然
状態の連担に細心の注意を払った広域緑地の配置を行うべきです。こうした野生生物と
共存できるみどりは、人間にとっても、環境教育、人間性の回復、レクリエーションな
どの場として、重要な働きを担うことができます。

5.里山などの、質の高いみどりを確保するための新しい手法が必要
 今回の計画案を見る限り、市街化調整区域においては、地域制緑地をあまり拡大せず
、専ら府営公園等を新設・拡大することによって、みどりを増やそうとしているように
見受けられます。
 行政の直轄事業によるみどりの拡大は、現在の厳しい財政事情の中、順調に進むとは
思えませんが、たとえ順調に進んだとしても、数万ヘクタールはあると考えられる里山
などをカバーすることはとうてい不可能です。そのためには、現行の制度による地域制
緑地の大幅な拡大をはかるか、もしくは、例えば「里山保全地域」などのような新しい
制度を作って望むべきです。