別所ゴルフ場問題公害調停申請

                                         平成11年4月6日

調 停 申 請 書
大阪府公害調査会 殿
                                         鉢ヶ峯の自然を守る会
                                         代表 清水 俊雄

 申請人は、公害紛争処理法第26条第1項の規定に基づき、下記のとおり調停を申請します。

1 当事者 別添当事者目録のとおり

2 公害に関わる事業活動の行われる場所及び被害の生じる場所
(1) 事業活動の行われる場所及び被害の生じる場所
 堺市別所1549-44他

(2) 被害の生じる場所
 堺市別所全域
 堺市美木多上など和田川下流域
 堺市御池台、庭代台全域
 和泉市福瀬町、北田中町全域

3 調停を求める事項
(1) ゴルフ場開発の開発区域測量図、土地利用計画図及び造成計画書等を申請人に対して開示しなければならない。

(2) ゴルフ場造成工事や開設後の農薬散布等による、カスミサンショウウオ、イワワキオサムシなどの生き物への環境影響について、科学的に評価する環境アセスメントを実施し、アセスメント結果を踏まえ、それらの保全に支障がある場合、土地利用計画などの見直しを行わなければならない。

(3) 大規模にわたる造成行為に伴い、広範囲の樹林地が消失されることが想定されるが、少なくとも計画地内にあるアカシデ林を大阪府自然環境保全条例上の自然樹林地として残さなければならない。

(4) 農薬散布による大気飛散や水質悪化を極力押さえるために、無農薬、もしくは減農薬に努め、農薬の種類、散布量、散布時期の事前の開示と散布後の大気と水質の汚染状況のチェックを行わなければならない。

(5) 造成工事中の土砂の移動、流出等による不要な自然環境破壊を避けるために細心の注意を払うとともに、工事段階及び開業後の申請人の立ち入り調査を認めなければならない。

(6) ゴルフ場の利用者による自動車交通量の増大による、騒音による生活環境の悪化、排ガスによる大気汚染、交通事故等を極力押さえるために、利用者に対し、適切な走行時間帯、ルート等についての周知を図らなければならない。

4 理由及び紛争の経緯
(1) 申請人は堺市別所地区を含む堺市南部丘陵とそれに連なる和泉市において、これまで一般市民を対象とした自然観察会などの行事を通じて、現地の自然状態についての調査、市民が自然とふれあい、自然への関心をもつ機会づくり、行政の自然保全施策についての提案などの活動を行ってきた団体である。平成9年8月211日には「別所の森の保全についての申し入れ書」を堺市長に提出している。

(2) 被申請人会社は、現在河内長野市天野町に約155ヘクタール(27ホール)のゴルフ場を経営しているが、それを9ホール拡張する意図で、隣接する堺市別所地区に48ヘクタールのゴルフ場開発を計画し、平成10年3月26日堺市に対して事前相談申出書を提出した。

(3) 申請人は、ゴルフ場計画を知り、そのことにより、自然環境が破壊されるとともに、多くの市民がその自然を享受することが不可能となり、周辺住民と和田川下流住民に被害が出ることを看過できず、堺市に対し、同年7月17日に「別所のゴルフ場計画に反対する申し入れ書」、8月24日に「別所のゴルフ場計画に反対する陳情書」と1万7920名の署名を提出した。

(4) 堺市は申請人等の主張にもかかわらず、同年9月3日に立地条件について承認し、現在諸法令について審査中である。

(5) また、申請人は堺市に対し、本ゴルフ場開発計画の内容を知るために、8月24日本ゴルフ場開発審査に関わる書類について、堺市公文書公開条例に基づき公開を求めた。堺市は9月22日これを部分公開決定とし、土地利用計画平面図、造成断面図、切り盛り計画図(案)を非公開とする。

(6) 申請人は部分公開決定について10月15日異議申し立てを行い、非公開図面の開示を求めるが、現在まで審査・開示ともにされていない。

(7) 申請人は被申請人会社に対し、同年11月27日に話し合いを申し入れたが、被申請人会社はこれを断った。

(8) 上記のように利用計画平面図等を見ることができず、被害を最小限にとどめる設計、施工上の工夫がなされるかどうか知りえない立場にある。被申請人会社と堺市との協議終了後、開発が許可され、ゴルフ場開発が行われた場合、以下に述べるとおり、ゴルフ場開発計画地内及びその周辺の相当広い範囲の自然環境と住環境に大きな影響をもたらし、多くの市民がその自然を享受できなくなり、別所を源流とする和田川の水質が汚染される恐れがある。そのため、本件調停申請に及んだものである。

5 別所ゴルフ場開発によってもたらされる影響
(1) 計画地の別所地区は動物・植物にとって重要な「緑の回廊」と」なっている。堺市南部丘陵の北に当たる畑・逆瀬川・鉢ヶ峯から別所を経由して、南の和泉市の槙尾山・父鬼や、河内長野市の天野山・滝畑へ緑を結んでいる。この緑が中継点で分断されると、オオタカなど豊かな自然のシンボルであるワシ・タカ類の生息を危うくし、小動物を孤立させるとともに、植物相を分断させる。面としての緑と共に、この線としての緑も生態系のつながりに欠くべからざるものである。

(2) 計画地は起伏に富んだ地形で多様な自然を育んでいる。ゴルフ場にするためには尾根を削り、谷を埋めるという大規模な地形の改変が伴う。計画地内には、ジュンサイやヒツジグサなどの貴重な植物や、大阪府では非常に珍しいアカシデ林がある。また、計画地近くでは、レッドデータブックに記載のあるカスミサンショウウオの生息も確認されている。この計画地がゴルフ場に改変されると、堺市では希少な森林や豊かな自然が壊滅的な影響を受ける。

(3) ゴルフ場では多量の農薬が使用される。大気への飛散、土壌への沈着、河川への流入により広い地域が汚染される。また、今回の開発面積は48ヘクタールとしているが、同社が隣接して経営する既存のゴルフ場区域面積を含めると200ヘクタールを越える規模となり、総量として大量の農薬が散布され、地域に与える影響が深刻となる。また、同ゴルフ場からは既設部分からの排水が和田川に流入しているが、これに拡張部分の排水が加わることとなり、和田川の水質がさらに悪化し、その水を利用する下流地区の農業環境の悪化が想定される。

(4) 被申請人会社は本ゴルフ場開発(拡張)により、現在27ホールであるゴルフ場であるゴルフコースを36コースにするとしている。それにともない、現在の1.3倍以上の利用者増が見込まれ、周辺の交通事情が悪化するものと思われる。とりわけ府道別所草部線と主要地方道堺かつらぎ線の交通増大が見込まれる。この2つの道路は現在でも狭隘で歩道部分がない部分が多く、しかも交通量は多い。さらに工事用の大型車両の通過により、いっそうの交通事情の悪化を招く恐れがある。

(5) 大阪府の環境影響評価要綱では、ゴルフ場開発については50ヘクタール以上が審査対象だが、今回の申請は48ヘクタールとされている。そのため堺市によるこのゴルフ場開発の立地条件の審査において、環境影響評価なしに承認されている。しかし、既存のゴルフ場区域面積を含めると200ヘクタールを越える規模となる開発について、自然に与える影響について全く調査されずに行われることは、本来の環境影響評価制度の理念から見て、問題があるといわざるを得ない。

(6) 現在環境問題は地球的課題となっており、各国で市民、事業者、行政が手を結んだ取り組みがなされている。このことはわが国においても同じであり、各々が各々の場と役割を通じて最大限の努力を払うことがその解決のための唯一の方法である。開発行為においても、「持続可能な利用」が謳われるように、自然環境との調和なくして今後の我々の生存すら危ういものと認識されるようになった。このような意識の高まりとともに、近年市民による身近な自然への希求が高まっている。それは身近な自然が真っ先に開発行為により失われてきたこと、そのことにより人々の感性、情緒などの人間性の拠り所が危うくなってきたことへの自然な欲求と思われる。これは自然環境享受権として市民の人間性回復のための重要な権利とされるべきものである。事業者として、堺市において最大と言える別所の自然樹林地の開発に当たってどのように配慮するのかはこの観点からもきわめて重要である。開発行為の結果、里山の景観と自然を全く失うことになれば、市民の自然環境享受権を侵害し、身近な自然を希求する現在と次代の我々にとって取り返しのつかない損失をもたらす。

6 計画地内に存在し、ゴルフ場開発による影響が特に懸念される希少種及び危急種
(1) カスミサンショウウオ
 レッドデータブックに地域個体群「京都・大阪地域のカスミサンショウウオ」として記載。水産庁編「日本の希少な野性水生生物に関するデータブック」に危急種として記載。

(2) イワワキオサムシ
 環境庁第2回自然環境保全基礎調査報告(1979)の大阪府の貴重な動物に選定。
 オサムシ類は後翅が退化し、移動力の小さい種類が多い。地理的変異が著しく、個々の種類の分布域が狭い例が多い。イワワキオサムシは近畿地方南半部の固有種で、亜種としてイワワキオサムシとキイオサムシがあり、天野山に生息するのは前者。森林に生息し、疎林では著しく個体数が少ない。環境庁に「普通種であっても、北限・南限など、分布限界になると思われる産地に分布する種」としてとりあげられている。

(3) アカシデ林
 樹種としてのアカシデについては「大阪府植物目録」では[山地、やや希]。
 北海道の北部を除けば日本全国に分布する植物だが、高木層に達しているのは、中間温林帯のうち、暖温帯落葉樹林といわれるモミ、イヌブナ林が知られ、奥羽山脈下部で急傾斜の尾根部にアカシデ林が極相として成立している。別所のアカシデ林は標高が低く、中間温林帯ではなく、共通樹種も多くない。これほど温暖な地域にアカシデ林が見られるのは珍しい。林内も安定した環境を保っており、春の新緑や秋の紅葉の美しさから考えても堺市内では保護すべきもっとも貴重な樹林の一つ。

7 別添資料目録
(略)
当事者目録
  (略)
以上