市民グループまちづくり提言

 堺市では、第4次総合計画の策定にあたって、市民からひろく意見の公募を行いまし た。鉢ヶ峯の自然を守る会では、7月23日、行政からの求めに応じ、市民グループとして以下のような政策提言をおこないました。

里山保全条例フロー図  (pdf 122kB)
南部丘陵の開発の現状図 (pdf 216kB)

グループ名 鉢ヶ峯の自然を守る会

代表者氏名 清水 俊雄

メンバー氏名 横島 彪、 酒井 和子、 上田 泰二郎、 岸田 元男

提言テーマ 堺市南部丘陵の里山の保全と再生に向けて

1南部丘陵の里山の現況と課題

−メダカの学校を歌のなかだけで終わらせないために−

●里山とは
 里山は、人間が田畑を耕したり、たきぎや炭などの燃料を生産し続けてきた場所で、農村の平地や丘陵にある樹林をいいます。さらに小川、ため池、湿地、水路、また鎮守の森、屋敷林もその中に含まれます。古くから里山は、自然と人の利用が調和して、今日まで保全されてきました。
 しかし近年、住宅地やゴルフ場などの開発が進み、里山が急速に消えつつあります。堺市の南部丘陵地(1,560ha、うち森林480ha)にも典型的な里山が残されています。和泉山脈を後背地に、雑木林や棚田、ため池、小川などが豊かな生態系を形づくっています。里山は、農林業の生産の場であるとともに、市民が身近な自然にふれあう、安らぎ空間でもあります。

●南部丘陵の生物相
 先頃発表された、「堺市自然環境基礎調査報告書」によると、南部地域は、豊かな生物相を持った田畑やため池、かなりの広さの樹林地を残存させているとし、以下のように報告しています。
 ほ乳類・・・里山的種が、南部に集中することが顕著な傾向といえます。タヌキ・ニホンウサギ・イタチ・テンなど。
 鳥類・・・・南部丘陵には、比較的良好な里山的環境が残されており、豊かな鳥類相が確認されています。また、二次林や社寺林では、食物連鎖の頂点に位置するサシバ・フクロウ・アオバズクといった猛禽類が繁殖し、オオタカやハチクマも生息しています。
 両生・は虫類・・・湧水の出る丘陵地を本来の生息場所とするカスミサンショウウオ・ニホンアカガエルばかりでなく、トノサマガエルやシュレーゲルアオガエルも南部丘陵以外ではほとんど見られません。
 魚類・・・オイカワ・カワバタモロコ・カワムツ・ドンコなどの在来種が、南部丘陵地付近に分布しています。また、メダカは急速に減少、衰退しています。
 昆虫類・・・堺市内で90年以降に1734種の昆虫類が確認されていますが、南部丘陵地域には特に高い昆虫類の生物多様性が維持されています。しかし環境の変化により、減少種・衰退種も多く認められました。
 植物・・・南部丘陵地では樹林が大部分を占め、現存アカマツ林からコナラ林あるいはそれらを含む混交林への遷移が進行しつつあります。田畑やため池。果樹園など、それぞれの立地に結びついた植物種が分布しています。

●堺市の南部丘陵整備方針
 「第三次堺市総合計画」には、つぎのように書かれています。
 とくに南部丘陵地は、本市で唯一まとまった樹林が分布するとともに、かけがえのない自然環境や優良農地を有している。しかし近年、残土処分やゴルフ場の建設、農地の転用などによって貴重な自然が失われつつある。今後、農業基盤の整備とともに、市民が自然や農業に触れあうことのできるよう、その活用をはかっていく必要がある。

●里山の開発と荒廃
 では、実際に南部丘陵他の里山の現状はどうなっているでしょうか。開発事業がメジロ押しです。鉢ヶ峯のゴルフ場開発計画(92年許可されず中止)・墓地の拡張計画・東西道路計画(沿道関発の懸念あり)、別所のゴルフ場拡張計画(99年6月許可)、さらに現在、鉢ヶ峯で造成工事中の「緑のミュージアム(3千台の駐車場を含む)」等々。
 また放置された田畑や果樹園など農業の荒廃も看過できません。さらにゴミの不法投棄、産業廃棄物の処分地、残土処分地(別所)など、まさに行政も憂慮したように里山生態系は危機的状況です。

●里山の保全をどうする
 近年、里山の公益的機能に関心が集まっています。山林や農地の所有者が先人より引き継ぎ、次世代に引き渡す努力を私たち市民は、どう支援していけばよいのでしょう。
 「メダカの学校は歌のなか」では禍根を残すことになります。今後の課題は、地元(地権者)、行政、市民が協働でより効果的な里山の保全策に取り組むことです。

2 南部丘陵の里山のあり方

 −生き物とのふれあいを子供たちに!−

 身近で、最も親しみやすい自然、農業や暮らしと関わり、なくてはならなかった自然である里山が、農業形態の変貌や生活意識の変化に伴い、無用の、とるにたらない存在となってきました。けれども、こうした里山の雑木林や田んぼ、溜め池の自然には豊かな生物生熊系が存続し、ハイキングや観察会などを通して市民が気軽に自然に触れ合える格好の場所として新たに見直されてきました。農業体験の場、小学生への環境教育の場、家族や近隣の人々のリクリエーションの場として、21世紀に向けての新しい里山の価値観が創造されようとしています。

●自然の宝庫
 堺市の調査にも見られるように、南部丘陵の里山は動植物の宝庫です。レッドデータに記載されるような希少種や貴重種だけが里山の価値ではありません。普通種である樹木や草花、昆虫や野鳥が、普通に見られるところに「里山ワンダーランド」としての価値があります。初夏の里山を訪れると、樹林ではクリの花が咲き、夏鳥のホトトギスが鳴き、田んぼではカエルが跳ね、そのカエルを猛禽のサシバが狙う。畦にはウツボグサが咲き、川岸てはウツギが咲き乱れ、夕ベにはホタルが乱舞−何世代にも渡って育まれた多様な生き物による食物連鎖と生態系のピラミッドが、里山の貴重さなのです。

●環境教育の場に−生き物とのふれあいを子供たちに!
 里山は、子供たちに取って格好の自然体験の場、最適な環境教育の場として活用できます。
 かつては環境教育などと大上段に構えなくても、下校後の遊び場として里山があり、田んぼがありました。虫を捕まえて飼い、大抵は死なす中で、自然の営みを知り得たのです。痛みも知りました。こうした生身の体験ができる場に、再度、里山を生かすことです。いともたやすく”切れる”現代の子供たちに心のブレーキをかけさせるには、原体験が必要なのでしょう。堺市の小学校では富田林の綿織公園に児童をよく遠足に連れていきますが、鉢ヶ峯でも少し整備をすれは様々な自然観察や農業体験は可能です。大阪市では「学校ビオトープ」が盛んに進められていますが、鉢ヶ峯の里山は天然のビオトープです。2002年度から行われる「総合的学習の環境教育(授業)」の場としても最適です。
 学校現場だけでなく、家族連れでの公園的な楽しみ方も味わえます。日曜・祝日の都市公園の賑わいが最近、顕著になってきました。ライフスタイルの変化です。きれいな空気、気持ちの良い緑、四季の移り変わり、鳥の歌声、それらを全部含めた自然の景観が、ハイテクに追われる人々の心を慰めてくれるでしょう。時には林の間伐作業や笹刈り、道ぶしんに汗を流すこと。こうしたことを通して「人と自然」、「人と人」のふれあいもできます。世代を超えた活動が、次の自然の守り手を育てる一助にもなるでしょう。

●共存へ
 里山の自然を市民の共有財産とするならば、市民の誰もが里山の自然を享受できると共に、保全についても力をかし、経済的にも支援する−市民共働の新しい枠組が里山再生への道です。

3 南部丘陵の里山の保全・再生方策

 −里山を楽しみながら生かそう−

 南部丘陵の里山の保全と再生を実現する具体的な方策を提案します。方策は堺市総意で取り組めるように、市民・NPO・地元・行政等が役割に応じて効果的に力を発揮できることを念頭においています。特に、市民と交流する新しい都市型農業の振興など、地元の活性化に配慮しています。

(1)ビオトープ事業 −トンボが飛びかう池にしよう−

 ビオトープの考え方は、欧州では破壊された自然環境をゼロから復元することから始まりました。日本では最近、小学校にトンボ誘致池を作ったりする環境教育の一環としてのビオトープや企業敷地内に池を作ってイメージアップに役立てることが盛んになってきています。トンボが環境のバロメーターになるということが認識されてきたと言えますが、そのような場所にやってくるのは一部の移動分散力が高い種や、それほど樹林地を必要としない種に限られるのであって、基本的には環境の消失とともに消え去る種類が多数を占めるということを認識すべきでしょう。
 南部丘陵では荒れてきているとはいえ、樹林地も多いのでゼロからの環境を創出するのではありません。元の手入れの行き届いた里山の二次林を再現するのに合わせて、ため池や湿地や小川の補修などをして以前の状態に戻せば、大きな手を加える必要もなくビオトープとなります。ただ当地の水生生物の多様性は水辺環境の多様性に負うところが多いので一箇所に水辺があればよいというわけにはいきません。その点充分注意が必要です。具体的には湿地や小さな池については、ある程度遷移が進まないように植生のコントロールをします。大きな池については水際の植生の復元に努める(必要であれば
コンクリート護岸を親水護岸に変える)とともにある程度水位をコントロールします。かつては秋から冬場に掛けて水をかなり落としていました。これが水質や外来魚のコントロールに役立っていたと思われます。
 大阪府で進められている「親水」公園はまだまだ土建屋的発想から抜けきれておらず、人間以外の生物への配慮が不足しています。南部丘陵で自然改変の構想があるならば、計画の段階から市民や識者の意見をもっと取り入れてほしいと思います。

(2)教育農園 −棚田を次の世代に伝えよう−

 棚田は、山に降った雨を一枚一枚の水田に溜め、治水ダムのような働きをしています。また水田には、水を浄化する機能があり、そこにはホタルやトンボなど水生昆虫が育ち、豊かな生態系が形成されています。棚田は、私たち日本人にとっての原風景でもあります。これを将来にわたって、ぜひ残して行きたいと思います。
 しかし棚田は、国の農業政策により生産効率の悪い水田として切り捨てられ、また南部丘陵では労働力の高齢化などにより、耕作が放棄されているところが目立ちます。
 棚田を保全し、復元するためには多くの若い力が必要です。今学校では、受験教育のための詰め込み教育で、子供たちの心はゆとりを失い情緒不安定になっています。この子供たちが里山の自然に触れることによって、これらのことも緩和されるでしょう。そこで子供たちの教育に棚田を利用することを提案します。
 まず、耕作の放棄された棚田は、市が農家から借り上げ、それを小中学校等に貸します。学校では、農家から農業指導者を講師として迎え入れ、子供たちに稲作の体験学習をさせます。子供たちはそれぞれ分担し、田植えから収穫まで稲作作業のすべてを自分たちの手で行います。収穫した米は、学校給食などに利用し、給食から出る野菜くずなど生ゴミは、たい肥として土に還元します。また米作りの副産物を利用して、しめ縄づくりなど農産物の加工体験もします。
 子供達は里山の自然に触れることによって、人もその環境のなかで生きて央たことがわかり、環境の大切さを学ぶことでしょう。

(3)市民農園 −放置された果樹園等を再生しよう−

 みかん畑等放置された土地は、農業体験を求めるシルバー層やサラリーマン家庭などに解放し、生涯学習の場とします。都市住民が農業生産者と契約を結び、生産者の指導を仰ぎながら果樹や野菜の栽培、森林の育成なども行います。なお、これらはすでに鉢ヶ峯やそのほかの場所でも一部実施されていますが、今後は、里山のなかに放置された土地にも広げて行きたいと思います。市民農園の近くには、農機具を置いたり、休憩の場所も必要になるでしょう。空き家などがあれば、それを利用するのも良いと思います。そこは都市住民と農業生産者との交流の場にもなります。
 森は、雨水を一時的に蓄え下流にある都市部の洪水を防ぐとともに、都市生活で発生する二酸化炭素や熱エネルギーを吸収する役割も果たしています。これまでその森を保全して来たのは農村です。都市住民は、その恩恵を受けつつも今まで農業を工業に比べて軽視してきたように思います。また国の農業政策も大規模農業を推進することで、都市近郊の農業の衰退を早めたように思います。この近郊農業が改善されない限り、都市住民の快適な生活もあり得ないでしょう。その意味でも都市住民と農業生産者の交流は必要なことだと考えます。
 これらは行政に頼むまでもなく、都市住民が農業生産者に直接働きかければ出来ることです。農業生産者も積極的に自分たちのまちづくりの一環として、これに応えて欲しいと思います。

(4)河川事業 −ホタルを川に呼び戻そう−

 梅雨空の蒸し暑い夜。涼を求めて、近くの川まで行くと、暗闇のなかにホタルが淡い光りを点滅させながら飛び交っています。これは昭和30年頃まで、家のすぐ近くで見られた光景です。
 ところが今では、そのホタルも車やバスに乗り、速くまで出かけなければ見られなくなりました。町からは水田が消え、川もコンクリートによって張り固められ、水を通すだけの水路にかわり、とてもホタルが生息できる環境ではありません。いなくなったのはホタルばかりではなく、メダカやドジョウ、タガメやゲンゴロウ、それにトンボなど水生昆虫の姿も少なくなりました。
 人と生き物との共生をめざして、コンクリートの川をもう一度、ホタルなどがすむことのできる川に戻すことを提案します。
 ゲンジボタルがすみやすい環境は、@水がきれい。A川底が安定し、カワニナなどの餌が多い。B土や石垣で護岸された岸。の三つの条件が必要と言われています。
 そのためにはまず、川の源流域に広葉樹などを植林し、森を育てます。森からは常に栄養分のあるきれいな水が川に流れ出し、カワニナなどの生息が可能になります。また現在のコンクリート護岸は順次取り外し、生き物の生息に配慮した「近自然工法」等による改修を行います。
 森の管理には、里山管理事業としての市民やNPOなどボランティアによる間伐などを取り入れます。「魚付き林」という言葉がありますが、漁業に携わる人も資源保護の面から、森の大切さに気づき、山に木を植えはじめています。都市に住む私たちも、森を育て生態系の豊かな川を取り戻すことによって、自分たちの住む町がアメニティー豊かで、より安全な町になることを願っています。

(5)里山管理事業 −里山を手入れしよう−

 里山の雑木林は、昔から、人の手が入れられることによって維持されてきました。炭焼きのために定期的に伐採されたり、堆肥にするための落ち葉掻きや下草刈りなどが日常的に行われ、結果的に明るく美しい景観と、スプリングエフェメラルズと呼ばれる氷河期からの遺存生物(キンラン、ギンラン、シュンラン、カンアオイなど広葉樹が葉を拡げる前の春の陽光に依存する植物と、そうした植物に依存するギフチョウなどの動物)なども存在できる「種の多様性」が維持されていました。しかし、戦後の化石燃料と化学肥料の普及により、こうした里山の利用がほとんどなくなり、放置されるがままとなってネザサやタケ、ヒサカキなどの常緑樹がはびこり、美しい景観と「種の多様性」を共に失うこととなったのです。
 燃料や肥料を取り出すという目的は失われましたが、美しい景観と「種の多様性」の維持は、現在においても非常に重要な事です。そこで、市民のボランティアによって、雑木林の間伐、下草刈りなどの維持管理を行う「里山管理事業」を提案します。作業は、単に環境保全のためだけではありません。社会に役に立つ仕事で流す汗は、健康づくりとして最適です。また、作業を通じて触れあう自然から学ぶものは、単に見るだけの場合とは異なる環境教育の実践でもあります。作業で出た間伐材などは、里山の土留めや階段の杭に使ったり、竹垣に用いたりと、現地でさまざまに加工して使ったり、炭焼きの材料や椎茸栽培の「ほだ木」にしたり、落ち葉や刈った下草などは、市民農園で使う有機肥料にもできます。
 こうした里山の維持管理の活動は、作業をボランティアでまかなうというのではなく、里山のデザインを自分たちで描きその実現を楽しむ、という感覚で行われている事が重要です。そうなってはじめて環境保全の作業ボランティアが、市民の生き様のひとつのあり方として定着するのではないでしょうか。

(6)里山環境教育事業 −楽しみながら、身近な自然を知ろう−

 人間としての基本的な、自然や環境についての理解、それを大切にする気持ちは、学校だけで育むことは不可能です。それは、人間の一生の全ての段階において、ささやかな楽しみを織り交ぜながら、気軽に自然に触れることの中で培われ、維持されるものでしょう。その大切さを知るとともに、地球環境保全にまでつながる「環境保全意識」をさまざまな世代の市民の中に醸成するために、里山環境教育事業を提案します。
 里山をフィールドにして実施する、植物や昆虫、水生生物等の自然観察会、探鳥会、また、食べられる野草を使った料理の講習会、蔓や竹等を使ったリースなどの工芸教室、薮の中の探険やどんぐり拾い、ハイキングなど、レクリエーションとして、子供連れでも気軽に参加できる取り組みが必要です。「鉢ヶ峯の自然を守る会」などのNPOがこれまで培ってきたノウハウを活用し、行政と一体になった取り組みが可能な分野です。

(7)里山管理施設整備事業 −里山を保全・活用するための最低限の施設をつくろう−

 里山は、保全を原則として活用すべきです。即ち、新たに巨大なハコモノ(何千もの施設)を作ったり、護岸や道路などの土木事業は行うべきではありません。しかし、市民が気軽に里山を親しむために必要な最低限の施設を整備する必要があり、里山管理施設整備事業を提案します。
 まず第1に、公衆便所が必要です。女性でも子連れでも気軽に訪れられるようにするためには、何ヶ所かは必要です。
 第2にビジターセンターが必要です。簡単な説明を行ったり、雨天時に避難したり、里山から得られたものを工作したり料理したり加工するための場所などです。40〜50人が集えるスペースと便所、オムツ交換や授乳ができるような小さな部屋、里山管理事業で使うノコギリやカマ・ナタ・チェーンソー等が保管できる倉庫、簡単な解説パネルが展示できる玄関ホールなどから成る200〜300・程度の建物で十分です。
 第3に、炭焼き小屋や野鳥観察のスペースの小規模な施設と、交流広場や自然散策路などです。これらは、できるだけ、木材や木杭、竹などの材料を里山の中から調達し、その設計、建設、維持管理はできるだけ市民のボランティアによって行うのが望ましいでしょう。

4 南部丘陵の里山の保全・再生条例等

 一条例や基金で里山を保全・再生しよう一

 南部丘陵の保全と再生を実効あるものとするには、市民総意に基づく保全・再生の計画とその計画を担保する法的根拠のある制度が必要です。 このことから、以下の骨子で構成される(仮称)南部丘陵の里山保全・再生条例の制定を提案します。

(1)(仮称)南部丘陵の里山保全・再生条例−里山を条例で保全・再生しよう−

●条例に「南部丘陵の里山保全・再生計画」の策定を規定し、次の(a)(b)に基づいて計画を策定します。
(a)保全・再生計画策定にあたっての現地調査の実施
・里山に生息する動植物などの生態系の科学的調査の実施
・里山を構成する樹林地、ため池、小河川、水路、棚田、果樹園等の現況調査の実施
・自然環境の荒廃状況、放置田、不法投棄ゴミなどの現地実態調査の実施
(b)市民参画による計画策定
・「堺市南部丘陵保全・再生連絡会議(仮称):地元代表、NPO代表、学識経験者、堺市関係部局」を設置し、連絡会議の総意による計画の策定とします。
 [保全・再生計画の概要]
◆(a)の調査による「南部丘陵ゾーン計画」の策定
1)保全地区−−−−まとまった樹林地や優れた樹林地をできるだけ手を付けずに保全する地区
2)ビオトープ地区−−−−ホタル、カスミサンショウウオ、トンボ等の野生動植物の生息環境を保全・再生する地区
3)里山レクレーション地区−−−−適度に手を加え、市民が里山空間をレクレーションの場として利用する地区
4)棚田保全地区−−−−里山生態系を支え、里山景観を構成する棚田を維持する地区
5)営農地再生地区−−−−放置された棚田や果樹園などの営農地として再生する地区
6)自然環境再生地区−−−−残土処分地等において自然環境を回復する地区
◆上述3−(1)〜(7)の「南部丘陵の里山保全・再生方策」の策定
●南部丘陵ゾーン計画に基づく施策
◆土地所有者への支接制度の創設
・ゾーン計画内の土地で土地所有者と市長との間で、以下の協定を締結したとき、市長は費用の助成やその他の必要な援助を実施することとします。
(a)1)〜4)の地区の土地の「維持保全・管理協定」による維持保全・管理のための費用の助成とその他の必要な援助
(b)5)6)の地区の土地の「再生協定」による再生のための費用の助成とその他の必要な援助
◆土地の指定
・1)〜4)の地区の土地において、協定が締結された土地、又は市長が必要と認めた土地について市長が指定したときは、市長は維持保全、再生のための費用助成やその他の必要な援助のほか、指定された土地の固定資産税の減免措置を講じることとします。
・市長は土地の指定にあたって、堺市南部丘陵保全・再生連格会議(仮称)に諮問し、その具申を尊重することとします。
◆指定された土地における開発行為等の許可制
・指定された土地について開発・造成行為、樹木の伐採、地形・土地利用の改変など(以下、開発行為等という)があるときは、次のとおりとします。
○保全地区、ビオトープ地区
 開発行為等を禁止する。但し、保全・再生のため適当と認められるときは許可することができる。
○里山レクレーション地区
 自然環境への負荷があると認められるときは、開発行為等を禁止ないしは制限する。
○棚田保全地区
 自然環境への負荷があると認められるときは、開発行為等を禁止ないしは制限する。
 但し、営農をやめる場合は、市長に棚田を維持のため必要な措置の申し出、又は、市に棚田の借り上げを申し出をすることができる。
◆土地の買取り、借り受け措置
・市長が開発行為等を不許可ないしは制限したときは、地権者への損失補償として、市長は土地の買取りないしは借り受け措置を講じなければならないこととします。
●条例に、下述の5の「南部丘陵の里山保全を推進するための組織」の設置を定めます。

(2)(仮称)南部丘陵みどりの保全・再生基金 −里山を守る基金をつくろう−

 安定した保全・再生施策を推進する保障として財源、資金の裏付けが必要です。財源・資金を捻出するため、以下のことを行い基金制度を確立します。
◆市民、企業等への寄付金の呼びかけ
◆市民債(グリーンコミュニティボンド)を発行して、市民等による債権の購入
◆市の一般財源からの計画的な基金への繰り入れ措置

 以上のはか、トラスト協会などの協力を得ながら市民による土地の購入など南部丘陵ナショナルトラスト運動の展開を市民に提起し、公民協働での保全・再生の取り組みを進めます。

5 南部丘陵の里山の保全・再生の推進体制

 −みんなで力を合わせよう−

 条例の制定など南部丘陵の保全のための環境整備とともに大切なことは、南部丘陵を保全する主体をいかに形成するか、ということです。言いかえれば保全のための理念や計画を誰がどのようにして実行するか、ということです。

【南部丘陵の保全を推進する主体】
 市民 自然環境の保全は堺市民自身の課題です。出来るだけ多くの市民が南部丘陵の自然に対する関心を深め、その保全に参加できる仕組みが必要です。
 NPO 市民参加を実現する上でNPOの存在を抜きに出来ません。口も手も出す意識ある市民集団として参画することが求められます。鉢ヶ峯の自然を守る会など南部丘陵の自然環境の保全に関連する複数の団体の参加が考えられます。地元住民(地権者) 地域作りの中核として地元住民の参加なしにありえません。行政(堺市) 市民、NPO、地元住民の活動がスムーズに行なわれるようにバックアップをする事務局としての役割が求められます。市民参加を呼びかける情報媒体の提供、諸活動を支援するための予算措置、活動主体間の調整のための事務会議の設定、堺市各部局間の調整、府・国・他自治体との調整及び受けられる助成制度についての情報提供、市民参加で策定した南部丘陵保全のための諸施策の実施などが主な役割となります。

【南部丘陵の保全を推進するための組繊】
〈(仮称)堺市南部丘陵保全・再生連絡会議〉 
 南部丘陵の保全について協議し、計画化するための組織。
前項4で「南部丘陵の里山の保全・再生計画と条例(仮称)」について取り上げましたが、計画と条例を作って終わりなのではなく、計画の実施状況の把握、年度ごとの計画化、新規計画の立案などの継続した取り組みが必要です。
 これを堺市行政に委ねるのでなく、市民参加の恒常組織(年度末に年度まとめと次年度事業について集中討議するほか、適宜進捗状況について検討する)とすることが必要です。
 メンバー 地元代表、NPO、堺・里山くらぶ(市民ボランティア・後述)代表、堺市関係部局、学識経験者。
〈(仮称)わっしょい里山協議会〉   地元住民とNPOが共同で自然環境の保全と地元の活性化に取り組む協議会。
 各種施策をうまく運ぶためには相互理解が鍵。地元住民とNPOが共同で各種イベントを企画します。ホタルの観察会、農産物の収穫祭、里山感謝祭(里山で行なう秋祭り)など。しめ縄作りなど地元の名人の技を伝える取り組みも企画します。共同作業を通じて地元住民とNPOが互いの活動の理解を深めます。
 また、一般市民が里山の自然とその恵みについて理解を深め、堺市民が身近なふるさととして南部丘陵に親しめる契機づくりの場とします。
 堺市がはじめはセッティングします。  
〈(仮称)堺・里山くらぶ〉  南部丘陵の里山の自然を守るためのボランティア組織。
 主な活動
自然観察会のリーダー、里山ハイキングの案内など里山の自然を一般市民に伝える活動。

6 鉢ヶ峯里山公園構想

 ─こんな里山がいいなあ…─

 南部丘陵の里山の中で、中央部に位置する鉢ヶ峯地区については、「鉢ヶ峯の自然を守る会」では自然観察会などの様々な活動を通して、長年、見続けてきました。そんな経緯から、こんな里山になってほしいという願いを込めて、将来像を検討してみました。
21世紀の地球環境時代に呼応する、新しい里山像を『都市型農業の振興をはかりつつ、豊かな自然環境の保全と再生を行い、自然と人が共に生き、多様なつながりが生まれる里山公園』と提案します。現状の自然環境と人との関わりを考慮し、地区を2つのゾーンに分けて、次に示す土地利用の構想を提案します。
【保全ゾーン】
 自然度が高く、まとまった樹林地や里山の景観があるところです。(シリブカシの森、コナラの径の北側の雑木林、オオタカ尾根、内河池周辺など)
【里山ゾーン】
 市民ボランティアなどの協力により、里山の維持管理や生産、レクリエーション、保全・再生などの活動を行うところです。
●里山体験の場・・・雑木林の下草刈り・間伐、間伐材の炭焼き、その炭で第二豊田川等の水質浄化、間伐材のほだ木で椎茸栽培、使用済みのほだ木でカブトムシ・クワガタムシの養殖、梅林の再生・観梅などを行います。(第二豊田川の西側雑木林一帯)
●トンボの生息地・・・ため池や湿地を保全・再生し、トンボ等の生き物がすめる環境づくりを行い、自然観察を楽しみます。(ネギトンボの池〜湿地〜内河池周辺)
●棚田を維持・復元する場・・・営農経験者の指導のもとで、市民ボランティアにより、放置された棚田の回復や畦の草刈り作業などを行い、米作りに取り組みます。(内河池の東側周辺)
【基盤施設】
 自然に親しめる施設を自然に極力影響を与えない範囲で整えます。
●自然散策路・・・高齢者や障害者の方々も自然にふれあえるような散策路を、各ゾーンを結ぶように整備します。
●ビジターセンター・・・便所を備え、案内パンフレットなどを置いて、自然観察・里山管理等の拠点にします。(第二豊田川合流付近)
●交流広場・・・弁当を食べたり、ドングリ遊びをしたり、自由にくつろげる広場です。(ホタル橋付近)