鉢ヶ峯の自然特性について
−その豊かな生態系の復元を願って−

 コゲラクラブ 横島 彪

 堺市の鉢ヶ峯寺地区は、隣接する別所・天野山や和泉市の槇尾山とは異なり、棚田とため池、雑木林など多様な自然からなる、いわゆる里山を形成している。
 そこに生息する生き物の種類も豊富で、その環境をよく反映していているように思う。例えば、昆虫で地形と密接な関係があると言われているオサムシの仲間では、別所や槇尾山には森林性のイワワキオサムシが生息するのに対して、鉢ヶ峯では草原性のヤコンオサムシが観察されている。
 カワトンボの仲間では、槇尾山などではミヤマカワトンボをよく見かけるのに対して、ここではハグロトンボが観察されている。トンボの種類は実に豊富で、70種以上を数え、ここの環境の多様さを反映している。
 河川の流域には、ゲンジボタルやヘイケボタルが生息していることも特色である。
 サクラでは、別所のヤマザクラに対して、ここではカスミザクラが数多く見られる。早春のショウジョウバカマやスミレ類、初夏のササユリ、そして秋にはリンドウやワレモコウなど、樹下に咲く花から草原の花までさまざまである。新芽の出始めたコナラの木の下で咲く、コバノミツバツツジの花は実に美しい。
 カスミサンショウウオは、春になると産卵のため雑木林の中のため池に下りてくる。
 野鳥については、冬にはノスリやオオタカそれにチュウヒなどが水田跡や河川周辺の草地を餌場としている。ため池ではコガモやオシドリなどが羽を休める。上空をミサゴが旋回して行くこともある。カシラダカやアオジなども林縁やよし原などで観察される。
 コジュケイの鳴き声とともに春がやって来る。オオルリやキビタキがさえずり、初夏には、ツツドリやアオバズクの鳴き声なども聴かれるが、しばらく居て別所や槇尾山などのより深い森のある方に渡ってゆく。春秋にはサシバの渡りも観察され、繁殖の記録もある。
 ウツギの花が咲く頃になるとホトトギスが鳴き始め、夏にはキセキレイなどの幼鳥が川沿いを飛び回る。カワラヒワの群がひまわりの種を求めて農耕地に集まり、ツバメが水田や池の上を飛び回るのもこの時期である。
 秋風が吹く頃になるとウスバキトンボが群をなして飛びはじめ、モズが里に下りて来て木のてっぺんで高鳴きをする。ノビタキも旅の途中に羽を休めてゆく。
 鉢ヶ峯の自然のすばらしさは、これら里山景観にある。そこには食物連鎖の頂点に立つサシバやオオタカなどが繁殖できるほど豊かな生態系があり、それは人と自然の絶えざる関わり合いの中で守られて来た。しかし残念ながら、最近は棚田やため池が開発などにより消え始めており、それはとりもなおさず鉢ヶ峯の自然特性の喪失である。
 人は失って初めて、そのものの大切さに気づく。里山を保全することは、地球環境問題のテーマの一つである「生物の多様性」を守ることにほかならない。