別所地区カスミサンショウウオ・プロジェクト作業の報告

−丘陵性湿地生態系復元実験−  報告:野口隆司

1999年4月、鉢ヶ峯の自然を守る会などが堺市別所地区の天野山ゴルフ場増設開発(開発者:大和開発観光株式会社)に対して、アカシデ林の保全やカスミサンショウウオの生息環境の保全等を求めて公害調停の申し出を行いました。
  2000年12月、両者間で調停が成立し、調停条項の1つにゴルフ場開発区域内にカスミサンショウウオの生息環境エリアの復元を図るため、調停成立後に具体の話し合いの場をもつことが確認されました。
  今年2月に会と大和開発観光株式会社で話し合いがもたれ、今シーズン(2月〜4月)、会でカスミサンショウウオの産卵調査の実施をしたうえで、その結果に基づき改めて話し合うことになりました。
  前後して、カスミサンショウウオの生態を研究されている大阪府立大学の夏原助教授から会に生息環境の復元についての協力の申し出があり、3月18日、夏原先生と一緒に開発区域とその周辺の産卵調査を実施。調査の結果、昨年は産卵していなかったゴルフ場開発区域内の湿地で3塊、湿地上流部の溜池(区域外)で1魂、溜池の上の水溜まり(区域内)で1塊を発見し、昨年も産卵していた湿地下流部の溜池(区域外)で9塊、合計14の卵塊を確認することができました。
  夏原先生から開発区域内の湿地をカスミサンショウウオのより良い生息環境に復元すべきとのアドバイスがあり、4月21日、大和開発観光株式会社と話し合いをもち、産卵調査の報告と湿地部分の復元を提案し、協力する旨の返答をいただきました。
  又、夏原先生も同社に赴き、以下の実験計画を説明し同社から全面的な協力を得られることになりました。

カスミサンショウウオカスミサンショウウオ幼生

カスミサンショウウオの卵塊 池の中カスミサンショウウオ卵塊

 

別所実験計画

 大阪府立大学大学院農学部生命科学研究科緑地環境保全学研究室

助教授夏原由博

(目的)
1. カスミサンショウウオが持続的に生存できるための環境を探り、復元する。
2.この地域の丘陵湿地や畦畔植生を調査し、復元する。
3.トンボやホタルが生息できる環境を復元する。
4.以上のような環境を維持するための管理手法を開発する。

(得られる効果)
1.大阪府南部では消滅しつつある丘陵地の自然の貴重な遺産となる。
2.エコミュージアム(野外博物館)として環境教育の場となる。
3.地球環境時代のゴルフ場のモデルとなる。

(方法)
1.カスミサンショウウオの産卵場所と産卵数、幼生期の生存率、鉢ヶ峯固体群との遺伝的距離を測定する。
2.耕作放棄水田において埋土種子を発芽させる実験を行う。
3.草刈り、耕転、水深調整によって、多様な生物が生息できる環境をつくるための実験を行う。
調査期間:平成13年4月から平成17年3月
カスミサンショウウオは産まれてから繁殖するまで、オスで3年、メスで4年かかる。今年産まれた卵からかえったメスが再び池に戻り産卵するまでの3年を一応の調査期間とするが、毎年中間報告を行う。

その他
研究結果は、天野山ゴルフ場および鉢ヶ峯の自然を守る会と相談のうえ、学会等で公表する。

早速、第1回作業を5月19日(土)に22名(府大6名、保全協会1名、会15名)の参加のもと、渋谷農道沿いの開発区域内の水路の草刈りと水路の土揚げ作業、昼食後、同区域内の湿地部分を鍬とスコップを使っての土起こし作業(6mX6m)を行い、予定の2/3の作業を終えました。
  次週の5月26日(土)、10名(府大4名、会6名)で、残りの土起こし作業と2区画(水深2〜3cmの浅い湿地と水深20〜30cmの深い湿地)に区分する作業を実施。参加者の中から「実験地の看板を立てようよ」の声があがり、参加者全員の竣工記念撮影の後、府大院生が当地で産卵して大学で育てていたカスミサンショウウオの幼生数十匹の放流を行い、午後2時過ぎには、しんどくて楽しかった作業を終えることができました。
  今後、府大院生の方々が継続してこのエリアのフィールド調査を行い、会としても観察会の実施や調査活動に協力していきたいと考えています。

鍬を入れる土起こしを終える