「パートナーシップによる環境教育・環境学習に関するモデル事業」
としての鉢ヶ峯の自然を守る会の活動[その2]

野口隆司

  2002年度、環境省が「パートナーシップによる環境教育・環境学習」に関するモデル事業として位置付けた活動のひとつとして、本会の活動が取り上げられた経緯は、前号でお知らせしたところです。
  環境省に報告するにあたり、本会の活動を、パートナーシップという観点から、以下のように整理しました。
NPO間のパートナーシップによる各種観察会
行政と市民のパートナーシップによる堺市職員の里山管理研修
行政・学校・市民のパートナーシップによる天濃池ビオトープづくり
市民・大学・企業とのパートナーシップ−別所カスミサンショウウオ・プロジェクト

そして、この度、文書にまとめ、あおぞら財団に、私達の活動報告として提出しましたので、二回に分けて、機関紙に掲載いたします。なお、15年度の環境省の冊子に、本会の取り組みが紹介される予定です。

以下、あおぞら財団への報告文

4.(社)大阪自然環境保全協会との共催(里山調査のつづき)
 (2) 2002年度の取り組み(4月14日)
定例コースが道路造成のため通行できなかったので、大正池方面の新コースを設定。小さな田んぼの草花を観察したり、尾根筋では緑のトンネル道を進んだり、逆落としの崖をロープを使って下りたり…。ワイルド感も楽しみながら大正池まで辿りついた。途中、鉢ヶ峯のシンボル・オオタカの飛翔や両生類のカスミサンショウウオの幼生との出会い、カスミザクラやヤマツツジ、コバノミツバツツジ、アケビ、キリ、クロバイなどの花づくしと見所いっぱいである。昼食時にはネイチャークラフト「小枝くん」を作りお土産もできたが、帰路は里山の荒廃地を延々と歩くことになり、ぐずぐず言う子もでた。素晴らしい自然ばかりでないことの現実を実感してもらった。それは鉢ヶ峯ばかりでなく、府下のほぼ全域でも見られることが調査の報告書にも記されている。一般参加者と調査・観察を継続して、里山ハイキングを楽しみながら保全協会共々、広く里山保全のコンセンサスづくりをしていけたらと考えている。
5.(社)大阪自然環境保全協会との共催「どんぐりまつり」
 (1)取り組みの経過
堺・鉢ヶ峯の「どんぐりまつり」も2002年で10回目を迎えた。保全協会の一地域グループの発案で始まったものを大阪府下の各地の里山にまで広げ、2002年は12ヶ所で開催されている。小学生を中心に参加総数は約2000人。「自然に親しみ、遊び、体験する」という環境教育の里山編である。1994年には環境教育学会の全国大会で鉢ヶ峯の「どんぐりまつり」を発表し、学校現場からも注目された。秋の里山に多いどんぐりを中心に観察会やどんぐり工作、自然の素材を使って作るリース、ゲーム、クイズ、どんぐり(スダジイやマテバシイ)の試食などプログラムはバラエティに富み、おとなも子どもも秋の一日を存分に楽しめる趣向となっている。
 (2)2002年の取り組み(10月26日)
鉢ヶ峯では今回もスタッフを合わせると100人を超え、会場のどんぐり広場を賑わせた。午前は3班に分かれて観察会兼リースづくりの材料集め。昼食後はゲームや工作というプログラムであった。鉢ヶ峯の特別メニューは「ススミのミミズク」。ススキの穂を悪戦苦闘してまとめ、可愛らしいミミズクを作る。多少、不細工でも世界で一つしかない「私のミミズク」である。新メニューは竹鉄砲。これは少年たちを魅了した。メダケを筒にクスノキの実を玉にして飛ばすと煙をあげ、樟脳のにおいを放ちながら5mは飛ぶ。竹鉄砲づくり名人の指導による。試食にはシイや地元産のシバグリのほか、今回は近くのため池から採ってきたヒシの実も加わった。フライパンであぶるとほんのり甘い味がする。ドングリ工作やクイズにゲームを目一杯楽しんだ後、みんなで童謡「どんぐりころころ」を歌って解散。「来年もまた来たい」の声がスタッフの疲れを吹っ飛ばす。
 (3) 取り組みの成果
泉北ニュータウンからの参加者が多いが、地元の鉢ヶ峯の子どもの参加も多い。近年は周りに田んぼや雑木林があっても自然遊びをしていないのである。自然に接するのに地域差がなくなっている。どの子も初体験、いや、若いお父さん、お母さんも初体験。自然入門としての「どんぐりまつり」の重要性をひしひしと感じる。スタッフとしては総がかりの大きなイベントでしんどいが、「自然に親しみ、遊び、体験する」が地域での環境教育のベースである。保全協会や他団体と交流しつつ、楽しい行事を提供していきたい。
行政と市民のパートナーシップ−堺市職員の里山管理研修
 (1) 取り組みの概要 
里山管理研修 倒木運び堺市能力開発支援センターでは、毎年、採用3年目職員を対象に市内のボランティア団体等へのインタビューや市民活動に体験参加し、今後の市政にどのように活かしていくのかを学ぶ職員研修を実施している。
同センターから本会が取り組んでいる堺市南部丘陵地の里山管理(下草刈り・間伐)を職員研修の一つとして取り上げたいとの依頼があり、座学研修とフィールド研修を企画し研修に協力している。毎年秋に、堺市所有の「自然ふれあいの森予定地」の雑木林を実習地として、本会メンバーと10名を超える研修受講職員及び同センター研修担当者が参加して14年度で3回目の里山管理研修になっている。フィールド研修に先立ち、同センター研修室で本会メンバーを講師に「里山の成り立ち」、「里山は身近な自然の宝庫」、「変わりゆく里山の現状」や「何故、里山管理(下草刈り・間伐)をするのか」などを里山についての理解を深め里山管理の意義を学ぶ事前座学研修を行った。里山管理作業時間の都合で、予め本会で間伐する常緑樹等へのテープ貼り付けや実習地の植生調査を実施。作業当日は植生調査の結果やカマ等の道具の使い方、作業手順の説明を行い、2班に分かれ、約3時間の下草刈り・間伐作業や間伐材等を使って土留め柵の設置作業を行なった。昼食時には、現地の自然素材を使ったクラフトづくりを行い作業だけでなく楽しい一刻を過ごした。里山管理研修 作業
又、作業終了後は、車座になって市職員から「現在の活動状況」、「活動に対する思いややり甲斐」、「解決していかなければならない活動の課題」、「市役所に求められていること」等の質問がだされ、本会からは「里山管理研修を選んだ理由」や「実際に作業体験して感じたこと」等を聞くなどの交流の場が持たれている。
 (2) 取り組みの評価
この間、ゴルフ場開発などの動きの中で市役所の所管部局との関係は里山の保全を巡って対立する場面が見られたが、市役所の職員研修を自然保護団体が企画、協力し、市民と行政の協働による研修が毎年、継続して実施され、相互の信頼関係が育まれてきたと言える。又、他の体験型研修テーマに比べて、「危険」、「汚い」、「きつい」と思われる里山管理研修にどれだけの若手職員が選択するか不安であったが、毎年、多くの若手職員が参加され、「楽しく作業を行い、ネザサ等で荒れた里山をリフレッシュさせた充足感がある」との感想を聞き、今後さらに市民と市職員の交流を図る必要性を痛感した。
 (3) 取り組みの成果
里山という言葉や堺市内に多様な生き物を育む身近な自然環境があることを知らない堺市の若手職員が里山管理の体験を通して里山保全の大切さや再生の必要性を体感されたと思われる。さらに、市民の思いや市民活動の課題や限界などについて意見交流したことで、すぐに成果として期待することはできないが、今後の市政運営の中で市民と行政の協働による取り組みの必要性について若手職員の理解が深まったと考える。
行政、学校、市民とのパートナーシップ−「天濃池ビオトープづくり」をめざして
 (1) 取り組みの概要
天濃池ビオトープ見学1天濃池は堺市南部丘陵地の最も大きな樹林地の北側に位置する大阪府所有のため池である。2001年3月、本会メンバーが進入路工事を発見し大阪府による「ため池ビオトープ事業」の工事であることが分かった。大阪府から示された計画案は池を一部埋め立て新たに護岸を整備するなど人工的色彩が強いものであり、本会から天濃池やその周辺の動植物調査を行い、その調査結果を踏まえて計画の見直しを行うよう要請した。大阪府は同年4月から1年をかけて動植物調査を実施し、調査結果から10〜15m幅の湿地を創出するなど、大幅に当初計画を見直す代案を示された。天濃池ビオトープ見学2

〔動植物調査結果の概要〕
急峻な岸辺であり水生植物やトンボ類の生息環境として適していない。魚類はオオクチバス等の外来魚が主で、鳥類はカモ類の飛来はほとんどない。

〔主な見直し案の概要〕
@池の一部埋立てと水際側の護岸整備、野鳥観察小屋の設置、池の噴水等の当初案をやめ、池北側の堤体沿いに湿地を創出し周辺の在来水生植物を植え、木道の観察デッキを設置。
A池の奥の谷筋2箇所を盛土し湿地を創出。
B池の中に浮島2つを設け、野鳥の休憩・隠れ場や魚類の魚礁の確保。
C進入路法面に周辺の在来植物の復元など。
本会からビオトープづくりの過程の中で市民と行政の協働や環境教育の視点を取り入れ、市民や学校に参加を呼びかけた「仮称;天濃池ビート―プの会」づくりを提案。計画の見直しを受けて、行政、大学・小中学校、本会で準備会をつくり、今年3月の発足に向けて市民公募(50名程度)等の準備を進めている。会発足後の15〜16年度の取り組みとして水生植物等の播種や移植,浮島づくり、外来魚駆除などのフィールド活動、モニタリング活動や管理運営等の取り組みを予定している。

 (2) 取り組みの評価と成果
従来、公共事業を巡って行政と自然保護団体が対立する構図が見られる中で、本事例は自然保護団体からの提案に対して行政側が受け入れられ真摯に対応された。さらに話合いを重ねる中でパートナーシップによるビオトープづくりの過程が大切であり、その過程の中で子ども達をはじめとした市民の環境教育・環境学習の場として生かすことが確認できた。本取り組みはスタートしたばかりで目に見えた成果を検証するまでには至っていないが、この間の話合いの中で行政、学校、市民が協働する意識を醸成してきたと言える。今後のビオトープづくりの中で市民や子ども達が身近な自然に親しみ、環境教育・環境学習の場として生かせるよう、パートナーシップを大切にしながら様々な分野や立場の人達が関わり、さらに輪を広げる取り組みを進めていきたい。
市民・大学・企業とのパートナーシップ−別所カスミサンショウウオ・プロジェクト
 (1) 取り組みの経過
カスミサンショウウオ・プロジェクト作業1998年夏、堺市別所にゴルフ場増設の話が持ち上がった。事業者は、河内長野市に本社があり、天野山カントリークラブを経営する大和開発観光株式会社(以下、会社という)である。
本会は、当地区にゴルフ場が増設されるとアカシデ林等をはじめとする貴重な自然が破壊されること、特に環境省のレッドデータブックで「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されているカスミサンショウウオの生息への影響が大きいことなどを理由に、開発許認可権を持つ堺市に対し、開発を認めないよう市民の反対署名を添え申し入れを行った。しかし堺市は、既に「大規模開発協議会」において、会社から提出されていたゴルフ場増設の事前申し出に承認を与えていた。
1999年4月に本会は、大阪府公害調査会に調停の申し立てを行った。6月には、堺市が開発を許可する中、委員長の斡旋により、本会と会社とは話し合いの場を持つことになった。その後、調停成立まで6回の話し合いを行い、お互いの意志疎通を図ることが出来た。その結果、2000年12月に開催の、第10回公害調停委員会において、調停が成立した。会社は、当会の要望を受け入れ、アカシデの樹林地を残すなど大幅に設計を変更のうえ、工事にあたっては自然環境に充分配慮することを了承し、本会は、ゴルフ場の造成工事をすることに異議を申し立てないことを約束した。
また、会社は、既に造成済みのカスミサンショウウオが生息するため池の上部谷筋を植林し、自然環境を復元すること、および今後もこの件で当会と話し合いを続けること等の合意をした。
2001年2月に本会は、会社と調停後初めての会合を持ち、ゴルフ場造成工事よって湿地に土砂が流入し、カスミサンショウウオやトンボなど水生昆虫の生息環境が悪化したことから、今春カスミサンショウウオの産卵調査を行いたい旨を申し出た。その際、大阪府立大学大学院緑地環境保全学研究室の夏原助教授から生息環境の復元についての協力の申し出があったことを会社に伝え、会社もこれに同意し、実質ここに「別所カスミサンショウウオ・プロジェクト」がスタートした。カスミサンショウウオ 卵塊(別所)
同年3月18日夏原先生の指導の下、開発区域およびその周辺でのカスミサンショウウオの産卵調査を行い、その結果、昨年産卵が見られなかった開発区域内の湿地で3対、その周辺を含め全部で14対の卵塊を確認した。
同年4月の会合で、3月の調査報告と湿地の復元計画書を提示し、会社から湿地復元の了解を得た。
カスミサンショウウオ(別所) 同年5月には、本会を中心とする市民と大学、企業が協力して湿地復元の作業が行われ、水深10cmと0cm程度の湿地、各々3m×6mを2面造成した。同年6月、夏原先生ほか大学の研究者によって、3月に収集し孵化させた幼生約千匹が湿地に放された。(3年後に、繁殖のため湿地に戻る予定)