堺市レッドリストと鉢ヶ峯の自然

−第二のメダカを作らない−

鉢ヶ峯の自然を守る会・堺自然観察会
酒井 和子

普通種も減少の一途
『2008 堺の環境』(08年12月、堺市環境共生部発行)に掲載されている「堺市レッドリスト」(同封のリスト参照)を見て、「ああ、やっぱり」という思いと、「まさか!」という思いが交錯し、鉢ヶ峯の自然の近未来に少なからぬ不安を覚えました。
 「ああ、やっぱり」というのは、鉢ヶ峯でもう15年も植物の観察会(堺自然観察会)をしてきて、近年の在来種(草本)のただならぬ減少に危機感を持っていたからです。田畑や雑木林の管理放棄(放置)に加えて様々な開発が追い打ちをかけ、自然の荒廃が加速化して、今や里山の生態系はやせ細っているのです。希少種ばかりでなく、普通種さえも危うくなっています。90年代にはごく普通に見られたはずの草本類が、生育箇所はもちろんのこと、その数においても、減少の一途をたどっています(帰化種は増加の一途ですが)。
堺自然観察会では参加者の記録と記憶をもとに、「22世紀へ残したい鉢ヶ峯の植物―草本」をアンケート調査し、07年度に中間報告を出しました。その残したい種の上位60種に、T=絶滅種、U=絶滅の危機に瀕している種、V=存続が深刻な状態にある種、W=生育環境の変化により、さらに減少すると考えられる種、X=減少しつつあり、注目を要する種、の5ランクをあてはめてみました。
市の評価とのズレも
 「ああ、やっぱり」というのは、スズサイコやイヌノフグリ、タチカモメヅルなど堺市レッドリストと評価が一致した種が多種あったことでした。特にギンランの激減は危機的なもので、双方がAランク(最重要保護)であったことはもっともな評価だと思われました。
 その一方でズレの見られる種もあり、タツナミソウやツルリンドウ、ヌマトラノオなどは私たちの方が、より厳しいランク付けになっています。それは15年の観察から得た"実像"で、堺市全域と鉢ヶ峯の地域限定という枠をはずしてみても、その評価は変わらないでしょう。
「まさか!」のヘイケボタル
 「ああ、やっぱり」、は植物ばかりではなく、両生類や昆虫類、魚類にも見られ、カスミサンショウウオやメダカ、アオヤンマなどがAランクにあがっていることでした。アオヤンマの宝石より美しいと思われるあの色に、棲息地が改変されてからは、もう出会うことが出来なくなりました。ベニイトトンボやヨツボシトンボも溜め池周辺から徐々に減っていき、とうとうAランクです。
 「まさか!」は、ヘイケボタルのAランク(最重要保護)入りでした。絶滅危惧種の認識の高いゲンジボタルがBランク(重要保護)に入っているのに対し、まだ大丈夫と思っていたヘイケボタルが、ゲンジボタルの上位に上がっているではありませんか!鉢ヶ峯の会では毎年初夏に「ホタル調査」をしていますが、期間が6月に限られているため、遅れて発生するヘイケボタルの変化を見逃していたのかもしれません。
普通種もあぶない!
 「まさか!」のまさかは、カエルの仲間でした。鉢ヶ峯で確認されている在来のカエルは6種――ニホンアマガエル、ニホンアカガエル、トノサマガエル、ツチガエル、ヌマガエル、シュレーゲルアオガエル、(ヤマアカガエアルは未確認、ウシガエルはアメリカ原産)――ですが、そのうちのニホンアカガエルとトノサマガエルがBランクに、ツチガエルとシュレーゲルアオガエルが要注意と4種もランク入りです。それにカスミサンショウウオを加えると、いかに両生類の棲息環境が厳しいものであるかが容易に推測できるでしょう。90年代にはトノサマガエルは足の踏み場のないくらいたくさんいて、普通種中の普通種でしたのに...。
 とにかく、水辺と林がセットになった環境が危ういのです。なぜかリストにはあがっていませんが、オオアオイトトンボも私から見ると要注目種です。溜め池の上に突き出た枝に産卵するこのトンボの生活史を考えると、水辺と林が好条件で揃っていないと繁殖は難しいと思われます。クサガメやアオダイショウもめっきり姿を消してしまいました。いつでもいる、それも相当な数がいると思っていた生き物が、ある時ふと気が付いたら、第2、第3の"メダカ"になっていた、ということが起こりかねない状況です。
基礎データを作る
 鉢ヶ峯の会では、これまで「ホタル調査」や「オオタカ調査」、「カスミサンショウウオの産卵調査」ほか、「メダカの救出・移植作戦」など様々な活動をしてきました。けれどもそれは、環境省の絶滅危惧種にあげられている種で、開発との絡みもあって緊急を要し、行政に保護・保全を熱心に働きかけてきました。
 それだけでは不足だったことが今回の堺市レッドリストで分かってきました。ここまで里山が荒廃及び改変してくると、普通にいるはずの種さえも減少していることは明らかです。調査はどの種に対しても必要だと思えます。どこにどんな種がどのくらいの数で棲息しているのかを調べて記録すること。少なくとも5年ぐらいのスパンは必要でしょう。基礎データを作成する、その中で、なぜ異変が起こっているのかを見ていく。地元にお願いするにしても、行政に相談や要望するにしても、基礎データは必要でしょう。
 難しいのは会の活動でどこまでそれが出来るかです。でも腕をこまぬいている訳にはいきません。年毎に分けて調べるのはどうでしょう。例えば09年は両生類、10年はチョウ、11年は野生動物(外来種も含む)、12年は水生生物、13年はクモ、というように。様々な調査の相互関係から生態系の変化も見えてきて、緊急な対処も出来てくるのではないでしょうか。
自然は市民の共有財産
 一番残念に思うのは、堺市がこのレッドリストから何を学び、再生・回復に向けて何をしていくのかが、明らかにされていないことです。自然は市民の共有財産です。財産がしっかり守られるよう、自然保全・保護に向けての真摯な取り組みをお願いしたいものです。

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